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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

その母の様子には、伸子の心をうつものがあった。越智にたいして、苦しく燃えあがっていた多計代の憧れの焔は、おそらくは多計代として女の若さが自覚される最後の情熱のはためきであった。その不安な激しい生命のゆらぎは、越智の人間の小ささと、感情の冷やかさで哀れにうちくだかれた。けれども、こうして、堂々と軽蔑の上に落ちついた母を見ていると、伸子はやっぱり悲しかった。多計代のあんなに激しい、本気だった女としての動揺も、土台のところでは、決して全生活がそこにかけられているものではなかった。辛辣にいえば、物質の上でみち足り、妻として良人からその肉体もみたされている年配の有閑な夫人が、自分の生活に欠けているものに憧れてそれに敗れたことではないだろうか。もしそうでないなら、伸子には、母が、越智にたいする軽蔑ばかりをつよく示しているのがわからなかった。多計代の眼のなかに苦しさと歎きのないのが、伸子にせつなかった。年や境遇に矛盾するような女としての若さが、計らずもそれを最後と燃えたった。その自分の情に深い哀れを感じてもいないらしいのが、伸子をいたませた。越智が軽蔑される心情をもっていることは事実であるけれども、第三者の目は以前からそれをみていた。