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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

タバコずきの素子は駅の売店で、ウェストミンスタアのプレインを五箱買い、自分のために一箱買った。

素子が自分の買うのはきまっていても、あれやこれやと外国タバコの箱を出させてたのしみらしくひねくっている間、伸子は同じ店頭で新刊書を眺めた。その朝の新聞が少しのこっている。そのわきに無産者新聞というのが重ねてあった。名はきいていたが、伸子はほんものをはじめて見た。ほかの大新聞はどれも一面いっぱいが広告で「わかもと」という四つの字をぶっこぬき縦にとおしてみたり、予約募集の出版広告でうずめているのに、その無産者新聞は、田中義一の軍閥内閣の満蒙侵略の画策に反対せよと東方会議の記事を一面にのせていた。「蒋介石も奉軍攻撃」と張作霖の没落の記事がある。広告だらけでないその新聞のしまった表情が伸子の心にふれた。伸子は手にとって見ていた無産者新聞をそれなり四つにたたんでふくさの中にしまい売子の男に五銭白銅を一つわたした。

伸子たちは、新宿駅の横手からガードをくぐってゆく電車にのった。小川豊助は、鍋屋横町でおりて、少し奥へ入ったところにいるのであった。

郊外の住宅地らしい生垣の間をゆくと、つい通りこしてしまいそうな垣根の隅に、横向きのように簡単な門があった。