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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

力を入れて、くりかえした。

「あれが、わからないなんてことはないはずだ」

そして、いくらかむっとしたように、

「それは君がわざとわかろうとしないんだ」

といった。

「どうして?」

伸子は縁側にしゃがんでいて、思いもかけない表情になった。

「どうして、わたしがわざとわかろうとしないなんて、あなたに、わかっていらっしゃるの?」

「…………」

「いま、はじめてお会いしたばかりだのに――」

「いや、いや、そういう意味でいったわけじゃない」

伸子は、本当にそれがどういう人なのか知りたそうにまた、

「――あなたは、どなたなんでしょう」

とつぶやいた。しかし浴衣のひとは黙ったまま、手にもっている雑草の穂を指の間でクルリ、クルリとまわしていたが、やがて、吸いきったタバコでもすてるようにそれを足下にすてて、

「――どうも突然、失敬しました。いつか北條一雄の本はよんで見られるといいと思うな」

そういって、伸子があいさつをする間もなく、柘榴の枝かげに身をかわして、門の外へ出て行ってしまった。その白い浴衣の後姿に黒い兵児帯が伸子の目にのこった。

二十三

不意に柘榴の樹かげからあらわれて、伸子が一人で金魚鉢を見ていた縁側によって来た男は、何者だったのだろう。