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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
「そうしましょう!」
自分に向って確信するように云った。
「全集としても、その三人で一冊ぐらいは、あった方がいいものなんだ。そうすれば佐々さんもいいでしょう、借金じゃないんだから――印税をあげることになるんだから」
「いいわ」
伸子は、思いがけなさで、まじまじと木下の蒼い、まるいようで四角ばった顔を眺めた。
「借金じゃ、わたしに返すのぞみはないもの」
「それゃそうです。――ただどのくらいになるかな、どっちみち本が出るのはよっぽどあとだから……」
木下は、何かの算用をした。
「予約ものってものは、いつもはじめのうちよりは、あとになってぐっと減るもんなんだが。……まあ、一万は出せるでしょう」
「それは三人で?」
「いや一人」
「じゃいいじゃないの。行ける」
「一万はひきうけることにします。あと、何か書けたら送って下さい。それは別に原稿料として払いますから……」
予想もしなかった方法で、伸子の旅費のことは、解決しそうになった。
そこへ素子が外出さきから戻って来た。
「おや、これは珍らしいお客さんだ」
素子が椅子にかけるとすぐ、伸子は、
「もっと珍らしいことがおこったわ」
全集に一冊加えて、伸子の旅費が出そうなことを話した。