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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
高い外壁に蔦のからんだ洋館だの、しゃれた鉄のすかし格子の見える上り口の様子だのを眺めながら、秋めいた午後三時の透明な光線に梳かれている桜並木をぬけた。並木を出はずれると、もう畑で、からりとした秋日にてらされて、ゆるやかな起伏をもった耕地や、遠く近くところどころに点在する雑木林がひろびろとあらわれた。伸子と素子とは畑の間の草道を、浅い雑木林のある方へと向った。大根畑があり、唐辛子が色づきかけており、大気の中には草木のみのる香りと午後の日光にあたためられた強壮な下肥えのにおいが漂っている。草道へ出ると、伸子は歩きながら秋の野草の花をつんだ。太い赤まんまの花や紫苑のような紫の野菊を。そうやってつまれるこまかい野の花々は伸子のこころを鎮め、広い地平線の眺めは伸子の目路をはるかにした。伸子は、だんだん、気分が落ちつき、そして、うれしくなって来た。うれしさが、はっきりして来た。花をつむために、数歩おくれていた伸子は、かけるように素子に追いついた。そして、
「なんだかうれしくなってきた」
と告げた。小声でそう云ったら、一時に、どっとそのうれしさが呼び出され、こみ上げて来たようで、伸子は活溌な勢のいい足どりになった。