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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
とよが乗る電車と伸子たちの渋谷行方面とは反対で、とよの乗る方がさきへ来た。とよは、あいている座席に風呂敷包をおくと、線路ごしに伸子たちの立っている方へ向いて立ち、しまった窓ガラスごしに幾度も腰をかがめた。電車が動き出し、丁度また腰をこごめかけていたとよの七三の前髪がよろけて窓ガラスにぶつかった。
伸子と素子とは渋谷からタクシーをひろった。数日来うちつづいたいそがしさに疲れて、伸子はいくらか胃がこわばり痛みそうだった。タクシーの座席のクッションに頭をもたせかけるようにして、はしりすぎる街の風景を見ていた。素子もひどくくたびれて、同じようにうしろへ頭をもたせかけ、目をつぶってタバコをすっている。
青山の大通りをはしっていたタクシーは前をゆく電車と、板を積んだ荷馬車とに行手をさえぎられて、不機嫌そうにスピードをおとし、徐行しはじめた。伸子のかけている側の窓からは、すぐそばに歩道が見え、そこに、ちらりと、うなぎ屋の紺ののれんが目に入った。そののれんに橋本と白く染めだされている。クッションにもたせかけた頭の位置はそのまま、伸子はじっと刺すようにそののれんに視線をすえた。