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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

門と庭との境には、いかにも郊外分譲地の家らしく垣根がなくて、樫だの柘榴の樹だのが、門から玄関へ来る道の仕切りとなっている。伸子が新聞をひろげているとこからは、丁度その柘榴のあたりから、庭の端の萩のしげみが見えるのであった。動坂の家のように、すぐ荒らびや生活の推移が見えるつくられた庭より、あっさりとしていて、雑草も季節の賑わいになるような借家の庭が、伸子に気やすい感じだった。去年、夜行で京都から帰って来た朝、伸子は二階のはしごの上から下まで滑りおちて、階段下の板をへし折るほどからだをうった。その時住んでいたのは、老松町でも、お裁縫やの二階ではなくて、アメリカの宣教師たちが住む古くから有名な洋館の近くであった。その家のせまいはしご段を、伸子はスリッパをはいたまま降りかけて、スリッパの踵が滑ったとたん、はっと思う間もなく下までおっこちた。その時から伸子の左の耳に耳鳴りがはじまった。小さいモータアが鳴るような音がしはじめた。素子が、二階のない、もっと閑静なところへ住むことを提案して、門のわきに栗の木の生えているここへ引越して来たのであった。

その朝の「朝日」