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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「その辺にないかい?」

菓子箱や罐がごたごたと置いてある座敷の隅を、坐ったままひとわたり目でさがした。

「ないねえ、どうしたんだろう。せっかくお前がくれたのに……」

それは、せっかく娘がくれたものだのに、という心持よりも、あんなものでも、ともかくお前がくれたものなのに、というニュアンスで響いた。手袋をもって行ったときも、財布をもって行ったときも、多計代の礼をいう調子から伸子が感じたのは同じことだった。そして、寂しかった。

保は、伸子が育った時分の質素だった佐々の家庭とはまるで違って来ている経済事情や社交の空気のなかに大きくなって、多計代が、数年このかた身につけはじめた変な無感覚さを、自覚しようもない少年から青年への毎日の生活でわけもっている。伸子は、何かの拍子に、冗談のようにいったことがあった。

「わたしの力では、とてもお母様がよろこぶようなものは買ってあげられないからね、親孝行のしようがないのよ。仕方がないから、せいぜい理窟をこねてね、お母様が買えない議論というもので親孝行でもするしかない」

保の生活は無垢ななりに、離れて暮している姉の、単純でひとり立ちの生きかたとは、ずっとかけはなれた環境におかれている。