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にじゅういち

二十一

坂口 安吾

「現代文学 第六巻第九号」1943(昭和18)年8月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,877 字 · 21 页

青空文庫

娘の全身は恐怖のために化石し、然し、それは、期待のために息苦しい恐怖であった。僕は怖い顔をして、煙草と叫んだが、その時以来、僕の分裂した意識の中で、この娘の姿ばかりが、時ならぬ明滅、ために僕は疲れ、身心ねじくれた。

悪いことには、この時以来、娘が急に信頼をよせて、怖がる様子がなくなった。そのころ家では毎日夕方になると一家総出で庭に水をまく。この土地は夕方になると風が凪ぎ、ソヨと動く物もない。母は夕凪ぎが大きらいで、庭一面に水をまかせて、せめて涼をとりたがる。僕は海から戻ってくるのが夕方で、これも神経衰弱退治と心得、水着の姿でまっさきにバケツをぶらさげて庭へとびだして水をまく。女中もみんな飛びだしてきて、娘も甲斐々々しく尻を端ショッて現れる。(このころはアッパッパはなかった。)僕は神経衰弱でも青年男子であるから一番遠い所へ水を運び、人の最も好まざる苦難を敢て行うというのは、之も青道心のせめてもの心掛けというものであった。離れの後を廻って便所の裏、そんなところは誰も水を運んでこない。ところが、娘が、重いバケツをぶらさげて、ヨタヨタしながら、僕につづいて、やってくる。