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にじゅういち

二十一

坂口 安吾

「現代文学 第六巻第九号」1943(昭和18)年8月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,877 字 · 21 页

青空文庫

母にたのんだところで承知する筈はないし、反対を押切り娘と二人で生きぬこうかと思いもしたが、坊主になる決意の下では、こういうことが邪念であり妄想だという考え方が対立した。神経衰弱退治どころの話ではない。ほっとくと気違いになりそうだから、まだ夏休みが半分ぐらい残っていたが、突然思い立って東京へ戻った。その日、突然呆気にとられる母の顔に苦い思いをしながら、出発してしまったのだ。すると娘が追っかけてきて、忘れ物です、と云って、路上で何かを届けてくれた。この忘れ物が何だったか、まったく記憶に残らぬけれども、娘はその品物を届けるために外の何事も考えずに駆けて来たのに相違なく、決勝線へ辿りついた百米選手のような呼吸であった。その後は再び娘に会ったことがない。

僕が早く帰ってきたので東京の婆やは喜んだけれども、神経衰弱は悪化の一方で、秋の訪れる頃、病状言語を絶し、毎朝池袋から省線で巣鴨の方へ行く筈なのに、プラットホームの反対側が赤羽行きで、あっちは赤羽行きだからイケないとそればかり考えるうちに赤羽行きの車掌が出発の笛を吹くと、アッ、たしかこっちが俺の行く方だ、と急にそう考えて乗ってしまう。