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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

一本松でございます。お降りのかたは……。

車掌の声に思わず立ちあがり、あわてて車内を走った。例の年よりに会釈もそこそこ、ステップに足をおろすと、いきなり大吉の声だった。

「母ちゃん」

濁りにそまぬかん高いその声は、すべての雑念をかなたに押しやってしまおうとする。

「母ちゃん、ぼくもう、さっきからむかえにきとったん」

いつもならば、ひとりでに笑えてくる、きれいにすんだその声が、今日は少しかなしかった。笑ってみせると大吉はすぐ甘えかかり、

「母ちゃん、なかなか、もどらんさかい、ぼく泣きそうになった」

「そうかい」

「もう泣くかと思ったら、ブブーって鳴って、みたら母ちゃんが見えたん。手えふったのに、母ちゃんこっち見ないんだもん」

「そうかい。ごめん。母ちゃんうっかりしとった。大方、一本松忘れて、つっ走るとこじゃった」

「ふーん。なにうっかりしとったん?」

それには答えず包みを渡すと、それが目的だといわぬばかりに、

「わあ、これ、ランドセルウ? ちっちゃいな」

「ちっちゃくないよ。しょってごらん」

ちょうどよかった。むしろ大きいぐらいだった。大吉はひとりでかけだした。

「おばあ、ちゃーん、ランド セルウ」