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じんせいせいかいいん
人生正会員
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,238 字 · 23 页
「あれも一時、これも一時だよ。数珠をまさぐって南無阿弥陀仏を唱えていたのも俺の姿、今又この通り会社の仕事で張り切って阿修羅のようになっているのも俺の姿だ。君には何方の姿が俺らしく見えるかね?」
「無論今の社長の方です」
「死んだ家内も俺が素人坊主になるのは喜ぶまい。内助の功を立てゝ、俺を今日あらしめたんだから、今日の俺が益※(二の字点、1-2-22)活躍するように望んでいるだろうと思う」
「はあ」
「俺は消極の悟りから積極の悟りに目が覚めたんだ。熊谷や西行は浮世の無情を感じて人生から退会したが、皆その真似をしたら、世の中は何うなる! 火事があっても逃げちゃ駄目だ。俺は何処までも正会員で行く」
「僕は初めから社長のお念仏には反対でした。しかし若輩の出しゃばる幕じゃないと思って、差控えていたんです」
「俺もさ。早く話せば宜かったのに、君には一番余計お念仏を聞かせているものだから、つい言いそびれていたんだ」
「分りました」
「あれも一時、これも一時」
「はあ」
「人生正会員、これが結局俺の開いた悟りだ。世を捨てゝ山に入る人山にても、尚お憂き時はいずこ行くらん。逃げるのは卑怯だ。