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じんせいろんノート

人生論ノート

三木 清

下記以外「文學界」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月~1941(昭和16)年10月<br>個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館、1920(大正9)年7月1日<br>後記「人生論ノート」創元社、1941(昭和16)年8月11日<br>旅について 不詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,023 字 · 143 页

青空文庫

政治にとっては独断も必要であろう。けれども教育にとって同様に独断が必要であるかどうかは疑問である。ただ、政治的欲望を含まないような教育的欲望が稀であることは確かである。

いかなる人も他を信じさせることができるほど己を信じさせることができない。他人を信仰に導く宗教家は必ずしも絶対に懐疑のない人間ではない。彼が他の人に滲透する力はむしろその一半を彼のうちになお生きている懐疑に負うている。少くとも、そうでないような宗教家は思想家とはいわれないであろう。

自分では疑いながら発表した意見が他人によって自分の疑っていないもののように信じられる場合がある。そのような場合には遂に自分でもその意見を信じるようになるものである。信仰の根源は他者にある。それは宗教の場合でもそうであって、宗教家は自分の信仰の根源は神にあるといっている。

懐疑というものは散文でしか表わすことのできないものである。そのことは懐疑の性質を示すと共に、逆に散文の固有の面白さ、またその難かしさがどこにあるかを示している。

真の懐疑家は論理を追求する。しかるに独断家は全く論証しないか、ただ形式的に論証するのみである。