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じんせいろんノート
人生論ノート
三木 清
下記以外「文學界」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月~1941(昭和16)年10月<br>個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館、1920(大正9)年7月1日<br>後記「人生論ノート」創元社、1941(昭和16)年8月11日<br>旅について 不詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,023 字 · 143 页
ギヴ・アンド・テイクの原則を期待の原則としてでなく打算の原則として考えるものが利己主義者である。
人間が利己的であるか否かは、その受取勘定をどれほど遠い未来に延ばし得るかという問題である。この時間的な問題はしかし単なる打算の問題でなくて、期待の、想像力の問題である。
この世で得られないものを死後において期待する人は宗教的といわれる。これがカントの神の存在の証明の要約である。
利己主義者は他の人間が自分とは同じようでないことを暗黙に前提している。もしすべての人間が利己的であるとしたなら、彼の利己主義も成立し得ない筈であるから。利己主義者の誤算は、その差異がただ勘定の期限の問題であることを理解しないところにある。そしてこれは彼に想像力が欠けているということの証拠にほかならない。
利己主義者は自分では十分合理的な人間であると思っている。そのことを彼は公言もするし、誇りにさえもしている。彼は、彼の理智の限界が想像力の欠乏にあることを理解しないのである。
すべての人間が利己的であるということを前提にした社会契約説は、想像力のない合理主義の産物である。社会の基礎は契約でなくて期待である。