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にんげんさんすいずまき

人間山水図巻

吉川 英治

「東京 創刊号」1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,343 字 · 21 页

青空文庫

宿とした無住の山寺では、山門の聯を割り本堂の木像を薪として、夜もすがら暖をとった。かついで来た例の柩からは、肉でも酒でも何でも出て来た。もちろん皆、里から盗んで来たものばかりだと、夏駿は事もなげに云った。

『深い山だね、いったいいつ山寨へ着くのだい』

『なあに、明日は朝のうちに着くさ』

『宣和の徽宗皇帝のときから仕えていた将軍の岳飛が、やはりこの大行山にたてこもって、折々、金の治下となった地方を悩ましていると聞いたが、君もその一党かね』

『そんな噂はよく聞くが、岳飛がどこにいるか、この山にいても少しも知らぬ』

『大行山は大きいなあ』

『いや大きいのは、どうでもこうでも移り動いてゆくものの力だよ。春から夏へ、秋から冬へは、誰にでも豫測されるが、もっと大いものの必然な推移は、おれたち小人には皆目分らないものだから、遂にこんなにあたふたな目に遭ってしまったのだ。まあまあ北宋もあれでよく百六十余年もつづいたものさ』

『だが、宣和の盛時に生れたら、誰だって、万代不易とおもうじゃないか』

『ばかをいえ。あんなに宋の四都ばかり繁栄を極めて、それ以外の広い黄土の民が、そういつ迄、王朝の軍官市人の栄燿のために、虐げられたままでいるものか。