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にんげんはんえい

人間繁栄

豊島 与志雄

「改造」1924(大正13)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,038 字 · 38 页

青空文庫

「失恋して間もなく他の人と結婚するのが、いいか悪いかって……。」

彼女は真赤な顔をした。彼も何故となく顔が赤らむのを覚えた。

「ああ私の昔のことですか。」

静子や綾子がそれをどうして知ってるのか意外だった。恐らくその頃の彼の事情をよく知ってる伯母からでも、静子が聞き出してきたのだろう。

「失恋した後で結婚するのはちっとも不思議でないと、静子さんは仰言るのですけれど、向うの人を本当に愛していたら、他の人と結婚なんか出来ない筈だと、私はそう云いましたの。」

「それが本当です。」

「でも、あなたは……。」

「私のは……別ですよ。」

白々とした額をのべて彼女がじっと覗き込んでくる……そういう感じに彼は変に心乱されて、立上ってそこらをぶらつき初めた。川風が肌に寒かった。

「ヒポコンデリーの獅子が失恋したなんて、可笑しいでしょう。」

「あら私、そんな意味であなたのことを……。」

彼女が今にも泣き出しそうな渋め顔をしたので、彼は喫驚して打消した。

「分っています。今のは冗談ですよ。」

彼が無言のままぶらぶら歩いてる間、綾子は同じ所に屈み込んで、しきりに河原の石をかきまわしていた。