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かたきうちきょうだいがさ
仇討姉妹笠
国枝 史郎
「講談雑記」1936(昭和11)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,178 字 · 159 页
今夜裏門にて――と隠語に書いたのは、望みの品物を奪い取ったのだから、もうこの屋敷にいる必要はない。でお葉に裏門まで来て貰って、一緒にこの屋敷から逃げ出そうと思い、さてこそそのように書いたのであった。
「ご家老様」とお八重は云って、今までじっと俯向いて、膝頭を見詰めていた眼を上げて、頼母の顔を正視した。
「隠語を記しましたあの紙片を、ご家老様には何者より?」
「あれか」
すると松浦頼母は複雑の顔へ一瞬間、冷笑らしいものを漂わせたが、
「其方の恋人山岸主税が、わしの手にまで渡してくれたのよ!」
「え――ッ、まア! いえいえそんな!」
物に動じなかったお八重の顔が、見る見る蒼褪め眼が血走った。
お八重の受難
そういうお八重を松浦頼母は、嘲笑いの眼で見詰めたが、
「去年の秋御殿で催された、観楓の酒宴以来其方と主税とが、恋仲になったということは、わしにおいては存じて居った。が、お八重其方も存じおるはずだが、其方を恋して其方という者を、主税より先に我物にしようと、懇望したものは誰だったかのう?」
頼母はお八重を嘗めるように見たが、
「わしであったはずじゃ、頼母であったはずじゃ」