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いまどしんじゅう

今戸心中

広津 柳浪

「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,688 字 · 74 页

青空文庫

かねて平田に写真を見せてもらッて、その顔を知ッている死去ッたお母さんも時々顔を出す。これがまた優しくしてくれて、お母さんがいたなら、お前を故郷へ連れて行くと、どんなに可愛がって下さるだろうと、平田の寝物語に聞いていた通り可愛がッてくれるかと思うと、平田の許嫁の娘というのが働いていて、その顔はかねて仲の悪い楼内の花子という花魁そのままで、可愛らしいような憎らしいような、どうしても憎らしい女で、平田が故郷へ帰ッたのはこの娘と婚礼するためであッたことも知れて来た。やッぱりそうだッた、私しゃ欺されたのだと思うと、悲しい中にまた悲しくなッて涙が止らなくなッて来る。西宮さんがそんな虚言を言う人ではないと思い返すと、小万と二人で自分をいろいろ慰めてくれて、小万と姉妹の約束をして、小万が西宮の妻君になると自分もそこに同居して、平田が故郷の方の仕法がついて出京したら、二夫婦揃ッて隣同士家を持ッて、いつまでも親類になッて、互いに力になり合おうと相談もしている。それも夢のように消えて、自分一人になると、自由にならぬ方の考えばかり起ッて来て、自分はどうしても此楼に来年の四月まではいなければならぬか。