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いまどしんじゅう
今戸心中
広津 柳浪
「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,688 字 · 74 页
お客から預かッていた指環を借りられたんだよ。明日の朝までとお言いだから貸してやッたら、それッきり返さないのさ。お客からは責められるし、吉里さんは返してくれないし、私しゃこんなに困ッたことはないよ。今朝催促したら、明日まで待ッてくれろッてお言いだから、待ッてやることは待ッてやったけれども、吉里さんのことだから怪しいもんさ」
「二階の花魁で、借りられない者はあるまいよ。三階で五人、階下にも三人あるよ。先日出勤した八千代さんからまで借りてるんだもの。あんな小供のような者まで欺すとは、あんまりじゃアないかね」
「だから、だんだん交際人がなくなるんさ。平田さんが来る時分には、あんなに仲よくしていた小万さんでさえ、もうとうから交際ないんだよ」
「あんな義理を知らない人と、誰が交際うものかね。私なんか今怒ッちゃア損だから、我慢して口を利いてるんさ。もうじきお正月だのに、いつ返してくれるんだろう」
「本統だね。明日指環を返さなきゃ、承知しやアしない」
「煤払いの時、衆人の前で面の皮を引ん剥いておやりよ」
「それくらいなことをしたッて平気だろうよ。あんな義理知らずはありゃアしないよ」