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こんにちのどくしゃのせいかく
今日の読者の性格
宮本 百合子
「都新聞」1940(昭和15)年5月19~22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,197 字 · 13 页
生活感情の不安定さをつきつめず、おどろきを失い、その日暮しになって、その不安定さから現象としてはあらゆる興行物や飲食店の満員、往来の夥しい人出となって動いている。本がどんどん売れ次から次と読まれてゆくことのうちにやはりこの心理がある。現実の動きを何かの意味で支配する生活の感情から本がよまれようとするよりも、現実の力に背中をドンドン押されて止まることの出来ない足を前進させながら、視線は次々飾窓をも見ている、あの雑踏の中の神経が今日の読者の神経となっていると思える。
読者一般をそのような眼くばりに漂い流している現実に向って、作家は、ではどんな自己の文学の足がかりを今日もっているのであろうか。刻々の現実をその発展の過程に於て本質的にとらえ、作家としての自己と作品との世界を支配して、その創作の血肉としての意味で読者の生活にもかかわりあってゆく作家の作家たる所以の態度というものは、今日作家自身にとってどのように把握されているだろうか。
この二三年の昼夜をわかたぬ波濤の間で作家自身既にそのような本質での作家らしさを失っているというのが、飾りないきょうの姿の一面ではなかろうか。