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こんにちのどくしゃのせいかく

今日の読者の性格

宮本 百合子

「都新聞」1940(昭和15)年5月19~22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,197 字 · 13 页

青空文庫

一

今から二十何年か前、第一次ヨーロッパ大戦が終る前後の日本では、足袋に黄金のこはぜをつけた人もあるというような話があった。そして、ジャーナリズムもこの時代に一つの経済的な飛躍をとげ、菊池寛、久米正雄というような作家たちを通俗作家として出発させ、円本が売れた。一つの画期をなした時代であったが、読者というものはあの頃、どんな角度で現れていたのだろう。

大戦前後、先ず高まった一般の購買力のあらわれの一面として自身を表現した読者たちは、あの時代にはやがてそのような景気のいい購買力を失っても猶続く自分たちの社会成員としての力を別様に表現して、日本の文学に新しい息ぶきをもたらす文学上の動きとかかわり合っていたと思う。

この頃は、黄金のこはぜというような単純素朴な、云わば庶民的成金の夢物語は人々の耳に入らないけれども、本が大変売れるということにつれていろんな話を又聞きする。たとえば、本屋へ電話がかかって、四十円ほど本を見つくろって届けて下さいと云った家があるとか、新宿の紀伊国屋かどこかへ若い職工さんが入って来て、百円札出してこれだけ本をくれと云ったとか、そんな話がよく耳に入る。