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なかなかしなぬあいつ

仲々死なぬ彼奴

海野 十三

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,216 字 · 18 页

青空文庫

時計を出してみた。予定の爆発時間までは、もうあと五分しかない。だが五分間あると思って落ちついていることは許されないのだ。すこし位のことは計算の誤差で、後や前になるかも知れないのだ。もう目を閉じて、神に祈りを捧げるのがよい頃合であろうか。

喜助は、口を大きく開いて、苦しそうにハァハァ喘ぎながら、竹筒の表面から寸時も眼を放たなかった。式場の青山斎場では既に読経が始まっている頃であろう。死におくれては一大事である。

喜助はもう眼を開いて居られなかった。彼は腰掛けの台を後ろに蹴とばすと、矢庭に大榊の花筒にシッカリ抱きついた。彼はハァハァと息を切り、額から脂汗をタラタラと流した。彼は讃美歌を、声も無く、歌っていた。

しかしどうしたわけか、喜助の注文どおりに中々爆発は起らなかった。最初に算出した定刻を五分十分と過ぎて行ったが、彼の腹部もまだ安全であった。喜助はすこし調子ぬけがしてきた。そのときであった。

「ガラ、ガラ、ガラッ!」

やられたッ、と喜助は思った。が少し音の出どころが違うようである。ハッと思って眼を開いてみると、これはどうしたことか、閉めてあった筈の入口が開いて、叔父の久作が、顔色をかえて彼の前に立ちはだかって、口をモグモグさせながら、両手を意味なく頭の上で振っているではないか。