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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

四、病床の素人探偵

「あの古井戸の向側の空地にね、事件のあった二日前まで、近所の古木屋の古材木が一杯置いてあったのです。若しその材木が売れてしまわなかったら、それが邪魔をしているので、僕達の見た例の犬の足跡なんかもつかなんだ訳です。ね、そうじゃありませんか。僕はそのことを、つい今し方聞いたばかりですが」

赤井さんはつまらないことを、さも意味ありげに云うのだ。

てれ隠しか、そうでなければ、彼はやっぱり利口ぶった薄馬鹿である。なぜと云って、事件の二日前にそこに材木が置いてあろうがなかろうが、事件には何の関係もないことだ。その為に足跡がさまたげられる訳もない。全く無意味なことである。私がそれを云うと、赤井さんは、

「そう云ってしまえば、それまでですがね」

と、まだ勿体ぶっている。実に変な男だ。

四、病床の素人探偵

その日は、外に別段の出来事もなく帰宅したが、それから又一週間ばかりたって、私は三度目の鎌倉行きをした。弘一君はまだ入院していたけれど、気分はすっかり恢復したから話に来いという通知を受取ったからである。その一週間の間に、警察の方の犯人捜査がどんな風になっていたかは、結城家の人から通知もなく、新聞にも一向記事が出なかったので、私は何も知る所がなかった。