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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

七、砂丘の蔭

赤井さんが煙草を買いに出たのが本当だったことも、その書生の口から分った。併しいくら強情を張った所で、証拠が揃い過ぎているのだから仕方がない。その上アリバイさえ成立たぬのだ。云うまでもなく彼は起訴され、正式の裁判を受けることになった。未決入りである。

七、砂丘の蔭

それから一週間程して私は結城家を訪れた。愈々弘一君が退院したという通知に接したからだ。

まだ邸内にしめっぽい空気が漂っていた。無理もない、一人息子の弘一君が、退院したとは云え、生れもつかぬ片輪者になってしまったのだから。父少将も母夫人も、それぞれの仕方で私に愚痴を聞かせた。中にも一番つらい立場は志摩子さんである。彼女はせめてもの詫心か、まるで親切な妻の様に、不自由な弘一君に附き切って世話をしていると、母夫人の話であった。

弘一君は思ったよりも元気で、血腥い事件は忘れてしまったかの様に、小説の腹案などを話して聞かせた。夕方例の赤井さんが訪ねて来た。私はこの人には、飛んだ疑いをかけて済まなく思っていたので、以前よりは親しく話しかけた。弘一君も素人探偵の来訪を喜んでいる様子だった。

夕食後、私達は志摩子さんを誘って四人連れで海岸へ散歩に出た。