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さくひんのけつみゃく

作品の血脈

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,728 字 · 6 页

青空文庫

そして、或る雪の降る日、自分の息苦しい生活から、雪の外気へとび出るような気持で家を出て、芝白金の方のかの子さんの家をさがした。坂の裏側の町筋へ出てしまったかで、俥が雪の細い坂をのぼれず、妙なところでおりて、家へ辿りついた。小ぢんまりしたあたり前の家構えであった。太郎さんという息子が風邪で臥ている、そこへ通された。話したことはちっとも覚えていない。どちらも余り話らしい話もしなかったとおもう。かの子さんはそのときお盆にのせてカルピスのお湯にとかしたのを出してくれた。ああ、これがカルピス? と私は笑ったように思う。一平さんが、人生漫画を描いていられる頃であったか、カルピスは初恋の味というような文句のついたユーモラスな絵が一平画とサインされてあったのは新聞などで見かけていたのだろう。そのカルピスが、かの子さんによって重々しく出されたので、そこに又ユーモアを感じた。そのときのカルピスは、酸っぱい気がした。

それから又余程たって、どこかの家でかの子さんと話したことがあった。同じ芝白金だったのか、そうでなかったのかよく分らない。かの子さんの自宅で会った最後は、もうやがて六七年も前のことになろうか。