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しゅんかん
俊寛
倉田 百三
「新小説」1919(大正8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页
俊寛 (耳を傾けず)妻はどうしているだろう。あの気の弱い妻は。娘はどうしたろう。もう今年は十一になるはずだ。おゝあのよく泣いて母を困らせた伜はどうしたろう。あの小さな、かわゆいやつは無事に育っているだろうか。(間)もしや清盛が。(ふるえる)いや、そんなことは決してない。彼だって人間の心は持っているだろう。重盛もついている。あゝそれよりももしやあの純潔な、誇りをもった妻が、侮辱されるのを恐れて、子供を刺し殺して、自害しはしなかったろうか。いや決してそんなことはあるまい。わしの安否も定まらぬうちに、自害する勇気はとてもあるまい。それに有王がついている。あの忠実な勇敢な下僕が。他のすべての家来が皆そむき去っても、有王だけはきっと最後まで守護していてくれるだろう。(間)しかし、もしも、もしも。(間)わしの苦しみは決定することのできない苦しみだ。決定する材料の得られない苦しみだ。しかも死んでいるか、生きながらえて恥を忍んでいるか、二つの凶事の中から、決定しなくてはならないのに! わしは人間に想像力があるのが恐ろしい。不吉な想像よ。わしを放ってくれ。わしに息をつかせてくれ。