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しゅんかん

俊寛

倉田 百三

「新小説」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页

青空文庫

康頼 (沖を眺める)この島に来るのなら! (考える)来るかもしれないぞ。わしは昨夜から不思議に胸騒ぎがしていたのだ。何か大きな幸福が来るような……

俊寛 (顔色が悪くなる)どうしたのだ。あの白帆を見ると寒い影がサッとわしの心にさしてくるのは!

成経 幸福の船よ! いやいや。わが心よ、軽はずみにおどるな。あとであまりにさびしいから。わしは幾百度裏切られたろう。しかも今度は、今度はと思って希望をかけないではいられない。きょうもまた無慈悲に方角を変えてしまうのかもしれない。そして結果は船の姿を見なかった前よりも、悪くなるのかもしれない。あの気ぬけのした、いまいましい、なぶられたような、不幸な心に!

康頼 (船より目を放たず)わしの愚かな妄想だろうか。いや、どうもいつもとは違うようだ。わしに与える気もちがちがっている。いつもは気まぐれな鴎のどちらに飛ぶか見当のつかないような、あてにならない気がするのに、きょうは信ずべきものの渡来を待つような気がする。あの船は決心したようにまっすぐにこの島に向かって来るように見える。

成経 わしもどうもそんな気がする。初めてあの船の姿を見た時から、待っていたものが、ついに来たような気がしてならない。