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しゅぜんじものがたり
修禅寺物語
岡本 綺堂
「文芸倶楽部」1911(明治44)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,737 字 · 26 页
夜叉王 せっぱ詰まりて是非におよばず、拙き細工を献上したは、悔んでも返らぬわが不運。あのような面が将軍家のおん手に渡りて、これぞ伊豆の住人夜叉王が作と宝物帳にも記されて、百千年の後までも笑いをのこさば、一生の名折れ、末代の恥辱、所詮夜叉王の名は廃った。職人もきょう限り、再び槌は持つまいぞ。
かえで さりとは短気でござりましょう。いかなる名人上手でも細工の出来不出来は時の運。一生のうちに一度でもあっぱれ名作が出来ようならば、それがすなわち名人ではござりませぬか。
夜叉王 むむ。
かえで 拙い細工を世に出したをそれほど無念と思し召さば、これからいよいよ精出して、世をも人をもおどろかすほどの立派な面を作り出し、恥を雪いでくださりませ。
(かえでは縋りて泣く。夜叉王は答えず、思案の眼を瞑じている。日暮れて笛の声遠くきこゆ。)
第二場
おなじく桂川のほとり、虎渓橋の袂。川辺には柳幾本たちて、芒と芦とみだれ生いたり。橋を隔てて修禅寺の山門みゆ。同じ日の宵。
(下田五郎は頼家の太刀を持ち、僧は仮面の箱をかかえて出づ。)
五郎 上様は桂どのと、川辺づたいにそぞろ歩き遊ばされ、お供のわれわれは一足先へまいれとの御意であったが、修禅寺の御座所ももはや眼のまえじゃ。