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はいゆうりんり

俳優倫理

岸田 国士

「演劇映画研究所での講義」1940(昭和15)年4月23日開始

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,412 字 · 104 页

青空文庫

何故そうであるか、何故そういう風に俳優の社会的地位は出来なかったか。非常に大勢の人を娯しませ、場合によっては大勢の人を感動させ、芝居を見に行くということがかなり高尚な娯楽となり、趣味となった時代でさえも、なおどうして俳優の社会的地位が向上しなかったか。それはつまりこういうことだと思います。

大衆は自分たちを感覚的に娯しませてくれる人間を精神的に尊敬しないものだということです。芝居というものが感覚のよろこびに終るものである限り、俳優はその人格の力を観衆の上に及ぼすことはできません。日本の芝居の場合は、俳優の肉体の魅力と感覚的なものだけに頼る、ごく狭い傾向が、今日まで俳優をほんとうの芸術家として、その受けるべき当然の尊敬を受けられないようにした原因です。

こういう説明のなかから、直ぐみなさんはその考の誤っていることに気がつかれるだろうと思います。これは社会の通念――世の中一般の人間のものの考え方というものが、如何に浅薄で、同時にものの真髄をきわめていないかということの証拠にもなる。そこで先ず俳優の仕事が尊敬するに足らない、従って俳優の仕事というものは一つの偽りの仕事であるという、こういう考え方に対して、それではどういう正しい考え方があるかということを申します。