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あにのこえ
兄の声
小川 未明
「子供の広場」1946(昭和21)年4月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,426 字 · 9 页
」と、かならず問うのであります。
兄は、友だちに、
「わたしは、社用で、方々の会社や、工場を訪問します。そして、いく人となく情味のゆたかな人たちと出あいました。ところがふしぎに、それが門番とか、受付とか、地位の低い人々にかぎっていました。さもなければ、大衆食堂の前へならぶような人々であります。それらの人たちとは、顔を見たさいしょから、なんでも心のうちを、うちあける気持ちになれば、また一本のたばこを分けあったこともめずらしくありません。なにがそうさせるのか、とにかく、この苦痛の多い世の中で、こうした人々の存在は、どんなになぐさめとなることでしょう。わたしは、会社の内にいるときより、外を出あるくときのほうが愉快なのも、そのためです。」と、語るのでした。
「じゃ、社内の空気が、おもしろくないのですか。」と、友だちは、きくのであります。
「考えてごらんなさい。命令と服従しかないところに、いったい、なごやかさなどというものがありましょうか。」と、兄は、答えました。
兄は、おだやかな性質であったけれど、だれに対しても、正直に思ったことを話しました。ことに友人に対しては、すこしもかくしだてすることはなかったのです。