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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

その一年は私の生涯に一枚はさまった美しい挿絵のような気がする。しかし事件は何もないのだ。ただ憧れと、少女たちの夢のおもかげと、島々や、寺々の追憶とに織り交った、純潔な、生意気さえも愛らしい人生の初春の一ページだと言うだけだ。しかし今となっては、それは惜しむべき返らぬ日である。

自分の目の前を花片が一枚散っても、それを核にして美の幻影を結晶させようとするような多感な心で、十七になる少年は尾道の街に起るすべての美を捕えようとした。

港を掠めて過ぎる帆影の一閃にも比すべきかりそめの人事の遭逢にも、私は浪曼的に夢をつなごうとした。

尾道に着いた最初の夜から私は市街の明るい賑わしさと、美しい娘たちの多いのに気がついた。何の対象もないのに私は心がいそいそとした。

何しろ学業をほうり出し、手をあげて、美と文化とを吸収しようとしているのだ。その憧憬の中心にあるものは無意識的に少女であった。

しかし私は本は放さなかった。文章も書いた。向上の志は止む時なく、街で開かれる展覧会や、講演会や、偕楽座にかかる都の芝居などの機会を逃がすようなことはなかった。船で西洋人に逢えば会話をしかける大胆さも持っていた。