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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
自分でもいい歌だと思った。つくったのではなく、何か産んだような気がした。私は嬉しくなって酒を飲んだ。酒もうまかった。実際これがきっかけになって私の歌は一段飛躍した。そしてそれと共に、鈴子と私との間も飛躍した。
鈴子と私とは歌の神に媒介されたようなものだった。少なくとも歌の上だけでは二人は相思の仲であるような空気がかもされた。それから後に見せ合う歌は相聞の部に入る歌になってしまった。しかしそれは現実の恋であるよりも歌の上の恋であった。
香の高い柑橘類。燃えるような丹椿。濃く、暖かい潮の色、海べの砂州と、嶋々の浦わ、尾道の自然は歌の材料にみちみちていた。少女の追憶は歌の思い出とからみ合って、私の思春期の絵本を美しくしているのである。
私たちは万葉集の恋歌を競って暗記した。もし出されて、そんなのは知らないと言ったら恥だと私たちは思っていた。しかしそんなにしてもやっぱり知らない歌が残った。それ程万葉集には恋の歌が多いのであった。
柳こそ伐ればはえすれ世の人の恋に死なむをいかにせよとぞ
鈴子からこの歌を出された時には私は困った。下の句など見るとどうも現代人の歌としか思えないのであった。