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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
朝未明に尾道を立っても、庄原へ着くのは黄昏時だ。田舎の街道を人通りは極くまれだ。途中で人に遇いさえすれば、綺麗な娘を乗せた俥を見なかったかと訊く。それなら新庄の辺で追い越したという。皆が色めく。暫くして俥のわだちの山にこだまする音が聞えて来る。(当時はゴム輪はなかった)やがて姉の乗った俥の姿があらわれる。皆歓声をあげて馳せつける。笑いと涙の爆発だ。車夫もちゃんとなじみの車夫だ。
こんな平凡な話をなぜ私は書くのか。それはその時の愛し愛されている温い、素樸な空気の幸福がその後の私の人生にどんなに稀なものであったかを思うからだ。そんなハンブルなことで人間は幸福になれるのだ。姉の俥の前後につきそって私たちは歓談しながら歩く。一番小さい妹は姉の俥に一緒に乗せて貰う。
こんな田舎に泊りに来るのがどうしてそんなに楽しかったのだろう。愛の空気につつまれることより外には何もない。まったく私たちの家庭は天国であった。何十倍の生活量のある今の私の都会の生活にとてもそれだけの幸福感はない。私たちきょうだいは本当に仲がよかった。
これは父母の慈しみと柔和のたまものである。