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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

この子はそれでいて感情家で、綺麗な声を持っていた。唱うことが好きであった。同級生と喧嘩してよく泣かせたがどうしたわけか、私とは仲がよかった。時々角力をとったが敵わなかった。兄や姉のお蔭でインテリで、ハイカラな鞄など肩にかけてやって来た。いたずらして先生に引きずり出されても、地だんだ踏んで頑張っていた姿が目に残っている。

が、この少年は小学校を出て後、軍楽隊を志願して海軍に入り、軍艦に乗り組んで、方々の外国の港などへも行った。そして熱心なクリスチャンになった。

至る所の港から私に絵葉書をよこした。小さな拙い字で一杯通信文を書いて。それは艦上で信仰のために迫害されているということ、しかし幾ら迫害されても、主を信ずることは止めないというのであった。

が思想の変転でアンチ、キリストになっていた私は、それを気障と感じて、一度も返信したことはなかった。それでも少しも怒らず、いつまでも絵葉書をくれた。今になって考えると、藤久君が外国の港の艦上で昔の私のことを思い出してくれて、たとい半分は自分の心遣りであったにしろ、異境の孤独の心を寄せてよこしたのに、どうしてそれに応えなかったのであろう。