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いりむこじゅうまんりょう

入婿十万両

山本 周五郎

「婦人倶樂部」大日本雄辯會講談社 、1936(昭和11)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,650 字 · 22 页

青空文庫

「――何か用かの」

「御登城早速ながら、お上へお目通り仰付けられたく、お願い申上げまする」

「お目通りの筋は何じゃ」

「かねてお申付に与りましたる件、ようやく落着仕りましたゆえ、ただ今より御披露申上げたいと存じまする」

「そうか、できたか」

靱負はにっこり頷いて「それは何より祝着じゃ、御意を伺って参る、待っておれ」

そう云って立上った。

浅二郎の望みで、賜謁は大書院に於て行われる事になった。上段には京極高信侯、列座は国老厨川靱負、同じく原口山城、勘定方元締役布目玄蕃の三名、――矢走浅二郎は、書上げた改革案の調書を持って遙かに平伏した。

「許す、近う寄れ」

高信は待兼ねた様子で云った。

「当藩財政の改革に当って数々の尽力、過分に思うぞ」

「は、は――」

「直答許す、仔細申述べよ」

浅二郎は僅かに面をあげた。

「お言葉に甘え御直答申上げまする、何分にも無能鈍才の私、このたびの大役とうてい勤まるところにはござりませぬ。蟹は蟹なりに穴の掘りよう、お叱りを受けるは必定かと存じまするが、裁量お任せに与りましたるゆえ、下根の窮策を御覧に入れまする」

「辞儀は申すに及ばぬ、聞こう」