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いりむこじゅうまんりょう

入婿十万両

山本 周五郎

「婦人倶樂部」大日本雄辯會講談社 、1936(昭和11)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,650 字 · 22 页

青空文庫

源兵衛は微笑しながら、「遠慮も良いが事と次第がある。分るか、ことに男女の仲というやつはそうだ、遠慮がかえって無遠慮になるという事もあるぞ」

「はい、――よく、承知いたしております」

「そうか、分っているならいい」

源兵衛は頷いて、「ではもう寝むがよい、今宵はその方たち夫婦の寝所を奥へ移させた、当分のあいだそうするからそのつもりでの」

「――それは又……」

「何も申すな、わしの計いじゃ、行け」

万事承知と云いたげな舅の笑顔を見て、浅二郎は返す言葉もなく部屋を出た。

困った事になったと思った。奥の間と云えば次間のない部屋である。どうでも不由と褥を並べて寝なければならぬが、――できる事であろうか。

婿に来て五十余日になるが、娘はかつて一夜も同じ部屋に臥すことを許さなかった。召使の者が並べて延べる夫婦の夜具を、いざ寝ると云う段になると、自分でさっさと隣室へ運び去り、間の襖を閉して寝息も聞かせまいとするのである。――御槍奉行、矢走源兵衛の一人娘として育ち、男勝りで、才智容色とも京極家随一と云われる不由の、高く持して抂げぬ強い気性には実際ちょっと手の出せぬ処があるのだ。