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いりむこじゅうまんりょう

入婿十万両

山本 周五郎

「婦人倶樂部」大日本雄辯會講談社 、1936(昭和11)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,650 字 · 22 页

青空文庫

難波屋方へは当方から通じておく」と云う意味が認めてあった。

大阪の難波屋宗右衛門と云えば、唐船物を扱って巨万の富者と評判の商人である。その伜とあれば理財の道にも長じていようし、また寒泉先生が推薦する以上凡人ではあるまいと、早速使者を立てて浅二郎を迎えたが、素性が商人では藩政に参与させる事はできない、しかも重要な役目に就かせるのだから、身分も相当にする必要がある――と云う訳で、高信のお声掛りを以って矢走源兵衛の一人娘、不由の婿にと入ったのであった。

勿論この事情は秘密であったから、京極家随一の娘、才色兼備の不由を横取りされた家中の若侍たちは怒った。

「なんだ商人上りの算盤才子が」

「恐らく金の力で押掛け婿を極込んだのであろ」

「あんな生白い奴に御槍奉行の跡目を継がせるとは四国武士の恥辱だ」

「構わぬから居堪らぬようにしてやれ」

と折さえあれば恥辱を与えるのだった。――娘不由も同様、事ごとに冷たい眼と、冷たい言葉で浅二郎を迎え、五十余日になる今日まで一度も閨を許さぬのである。

「早く役目を果しさえすれば――」

浅二郎は寂しげに呟いた。

「しかしあの不由、……京にも稀なあの美しさのどこに、あんな烈しい気性が隠れているのだろう。