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いちょう

公孫樹

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,764 字 · 20 页

青空文庫

「公孫樹は不思議な木だって、どうしてだい。」

そんな風に私は問いかけざるを得なかったのである。すると、吉住はなお憂欝な顔付になったが、やがて料理を食ったり酒を飲んだりしてるうちに、変に眼をぎらぎら光らしてきて、向うから進んで、次のようなことを話しだした。

僕の家の庭の隅に、大きな……というほどでもないが、可なりな公孫樹が一本ある。あんな往来にあるのなんかより、もっと美しい瑞々しい若葉を出してるし、秋には真黄色になって、庭一杯落葉が散り敷く。いくら枝を刈り込んでも、すくすくと威勢よく伸び上ってゆく。いつ頃誰が植えたものか分らないが、小さい時にその落葉を拾って遊んだという記憶はないし、その代り、末の妹なんかがそうして遊んでた記憶はあるので、多分僕の生れる頃に小さいのが植えられたのだろう。いや、僕が生れるより一二年前に植えられたのに違いない。なぜなら……。

だが、それは先の話だ。公孫樹というものは早く大きくなるものだね。もう立派な大木になっている。

その庭の隅の公孫樹を、父は大変大事にしていた。なぜだか僕には初め分らなかった。今でもよくは分っていないが……。