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いちょう

公孫樹

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,764 字 · 20 页

青空文庫

そんな時は殊に気むずかしかった。手の指先で触ってみて、柔かくすべすべと平らになるまでは、どうしても承知しなかった。

「自分で切っても平らにゆく。お前達に出来ないわけはない。」

そう云って、気に入るようにならなければ許さなかった。そして両足とも済んでしまうと、立上って一つ大きく伸びをして、愉快そうに云った。「ああ、これでさっぱりした。」

父にとっては、蹠の胼胝を切り取ることは、髪を刈ったり入浴したりすることなんかよりも、もっと精神を爽快になすかのようだった。

それにまた、切り取る皮は散らさないで、下に敷いた新聞紙の中にまとめなければならないので、それが切る者には一苦労だった。固いこちこちの皮を握鋏で切るのだから、どうしても遠くへ飛び易かった。然し皮の一片でも遠くに飛び散ると、それを必ず拾わせられた。

「たとい足の皮でも、やはり身体の一部分だ、土足に踏み蹂られるところに打捨るのは不快だ。」

それが父の理屈だった。然しそれ以上にもっと本当の理由があったらしい。

父はどこからか、植物には人体が最上の肥料であると、変なことを聞いていたものと見える。戦争後の満洲の野がどうだとか、昔火葬場だった跡の野原がどうだとか、そんなことを話してきかしたことがある。