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ふゆのやま

冬の山

木暮 理太郎

「旅」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,733 字 · 8 页

青空文庫

秩父や日光や奥上州から奥羽へかけて、丁度それ位の高さの山は、灌木と共に根曲り竹や熊笹などが茂っていて、夏は通過するのに非常に困難であるが、早春の頃三、四尺から五、六尺も雪の積っている時であると、凍結した雪の上を楽に歩き得るので、夏ならば一日を要するであろう行程を二、三時間で通ってしまう。会津から越後にかけての猟師は、歩行に楽な冬の間しか山に入らぬので、夏山の案内に頼むと飛んでもない失策を演ずることがある。若干軽装してこの雪の上を羚羊のように駈け廻る時の愉快は、到底筆や言葉にあらわせるものではない。

或年の四月の上旬、桜咲く富士の裾野を南から西に廻って、麓の部落から天子山脈の最高峰大方山に攀じ登り、全山霧氷に飾られた樹林の間から、南アルプスの雪山の壮観を眺め、三尺の積雪を踏んで尾根伝いに本栖湖畔に下ったまでは無難であったが、日暮れて精進湖のほとりに路を失い、余り騒いだお蔭でホテルの娘さんにボートで宿屋へ送られたおかしかりし旅。豊脆な独活や蕨の味噌汁に舌鼓を打ちつつ、雪の峠を横断しては温泉から温泉へと辿り歩いた奥上州の暢気だった旅。山の上で大吹雪に遭い、危うく不帰の客となろうとして、辛くも青根温泉にころがりこんだ四月の蔵王越えの苦しみ。