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とううん

凍雲

矢田 津世子

「婦人文芸」1934(昭和9)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,121 字 · 29 页

青空文庫

鏡の中で、仙太がきいた。

「そ、それあ、西洋剃刀でしょう。が使い慣れないと怪我するでね」

時二郎が大きく欠伸して出て行った。

「なんか、面白い話でもあったんか?」

「今朝の新聞の心中ものを読んでいたところでして」

親方はぎごちなく笑った。そして、研ぎ上った剃刀を頭へあてがい切れ味を試した。

外は風がまだやまなかった。硝子戸が激しく鳴っていた。

仙太は、冷えた湯で顔をなでられるごとに口をきつく結んだ。

「一服していったら」

仙太が立上り、前をはたくと、親方は炉端の煙管を取りあげた。

黒はむっくり起きて、主人に跟いて出て行った。

「仙太さんも変ってきたなあ」

と親方は、煙草を詰めながら独りごちた。

雨は降らなかった。風は闇の中に烈しく音を立てていた。一里はなれた線路を走る汽車の汽笛が微かに懐えてきこえた。

墓地は暗く、椎の木が苦しげにうめき叫んでいた。

仙太は立ったなり何度も燐寸を擦った。

「坐ったらいいのに……」

お高はうずくまって、袂を屏風にしてやった。

「寒くないかい」

「それよか、人に見られるといけないから、もう少し小っちゃくなったら」

仙太はくすん、と笑って、肩を屈めるようにしてお高に寄り添うた。