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はつこい
初恋
矢崎 嵯峨の舎
「都の花」1889(明治22)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,226 字 · 39 页
を着て、茜木綿の襷を掛けて、糸を採ッたり衣を織ッたり、濯ぎ洗濯、きぬた打ち、賤の手業に暇のない、画にあるような山家の娘に見え出した、いや何となくそのように思われたので。それゆえ自分は連れにはぐれて、今ここへ来ている者だなどということは、ほとんど忘れたようになッていた。不意に表の方が騒がしくなッた。
自分は覚えず貌を上げてそして姉を見た。
「おお秀坊が!」
第一に姉が叫んだ。
誰しも苦痛心配は厭いであるが楽になッてから後、過ぎ去ッた苦痛を顧みて心に思い出したほど、また楽しみのことはない,それと大小の差はあるが、心持は一ツだ。昼間自分たちのはぐれたのは、一時は一同の苦痛であッたが、その夜家へ帰ッてから、何かにつけてそのことを言い出しては、それが笑いの種となり話の種となッた時には、かえッて一同の楽しみとなッた。自分は娘が嬉しそうな貌をして、この話をしている様子を見て、何となく喜ばしく、そして娘も苦痛を分けた人が自分であると思うと、一層喜ばしく、その日の蕨採りは自分が十四歳になるまでに絶えて覚えないほどな楽しみであッた、と思ッた。しかし悲喜哀歓は実にこの手の裏表も同じこと、歓喜の後には必ず悲しみが控えているが世の中の習わし。