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はつつぼみ

初蕾

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 页

青空文庫

「でもあの人のほうが半さまをやりこめにかかっていたじゃありませんか」

「そうじゃない、森田は正しいことを云っていたんだ、おれはあいつを斬ってから、雨のなかを当もなく歩きまわるうちにそれがわかった、おれがどんなに下等な卑しい人間だったかということも、……おまえとこういう仲になっていながら、好きなうちは逢おう、飽きたらさっぱり別れよう、そんな約束まで平気でした、それが人間らしい生き方だなど云って」

半之助はそこで激しくかぶりを振り、盃の酒を毒でも服むように呷った。

「……森田はこう云った、そういう考え方は人間を侮辱するものだ、幾十万人といる人間の中から、一人の男と女が結び付くということは、それがすでに神聖で厳粛だ、好きなうちは逢う飽きたら別れる、いかにも自由に似ているがよくつきつめてみろ、人間を野獣にひき下げるようなものだぞ、……きさまは自分を犬けものにして恥ないのか、この言葉がはたしあいの原因になったんだ、お民」

「でもそれは、それは半さまひとりがお悪いのじゃあなく、あたしだってよろこんでお約束したことだし、二人の身分ちがいということが」

「いやそのことだけじゃないんだ、きょうまでのおれの生き方すべてが、ごまかしと身勝手とでたらめで固まっていた、それがおまえとの仲まで根を張ってきたんだ、おれは雨に濡れて闇のなかを