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はつつぼみ
初蕾
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 页
九
そのときお民は痒がるのを掻かせないために、七昼夜というもの一睡もせずに看病をした、おかげで小太郎は痘痕を残さずに済んだが、お民は過労にまけて倒れ、余病が出たりして三月あまり寝たり起きたりが続いた。
宝暦十一年を迎えた正月、小太郎は袴着の祝いをした。その祝宴の明くる日、城下から俣野考太夫という老臣が訪ねて来た。俣野はもと納戸奉行をつとめ、良左衛門とはごく親しくしていたが、こちらが蟄居をかたく守っていたため、訪問を遠慮していたのである。現在では国家老の席にあり髪毛なども眼立って白くなっていた。
「実は珍らしい知らせを持って来た」
久濶の挨拶が終ると、考太夫はこちらの眼を見ながらそう云いだした。
「おそらくこなたには想像もつくまい、半之助どののいどころがわかったのだ」
九
鋭どい痛みを感じたように眉をしかめながら、しかし頓には信じかねるような良左衛門の顔に、考太夫は微笑の眼をやりながら云った。
「去る十一月のことだ、殿が昌平黌の仰高門日講に出られた、すると講壇にのぼったのが半之助どのだった、お側に付いていた者が気づいて申上げ、講義のあとで係りの者に尋ねると、それに相違ないことがわかった、それで殿は大学頭に会われた、仔細を問われたところ、七年まえに堀尾佐吉郎という教官の塾へはいり、それから学問所へ通ううち、才能を認められ