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わかれのじ
別れの辞
豊島 与志雄
「中央公論」1935(昭和10)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页
土間の長卓の方には、客はなかった。その片隅によりかかって、島村は煙草をふかしていた。私はその顔を見て、異様な感じがした。少し痩せたなと思われるだけだったが、ひどく色艶がわるく、額が妙になまなましく、眼に鋭い光があった。元来彼の容貌は、高い頑丈な鼻を中心に精力的なものを持っていたが、その精力的なものが内に潜んでしまってるようで、額のなまなましい感じと眼の鋭い光とのために、生きた人形という印象を与えた。
「例のことなんだが……。」
彼は私の顔をじっと見た。私は眼を伏せて、うまくいかなかった旨を答え、心当りもなくなったことを打明けた。彼は落付いた微笑を示した。そこで私は云った、是非必要だというのなら、前に話したことのある方面に二三当ってもみようし、また彼の方で心当りがあるなら、それを全部駆け廻ってみてもよい、とにかく総ざらいをしてみよう……。
「いや、それには及ばない。心配かけてすまなかった。」
ばかに冷かな調子で、そして彼はまた微笑をもらした。
奥の室にはいると、大西は冷淡な眼で、長尾は落付いた眼で、私たちを迎えた。清子が飛び上るような声をたてた。
「あら、お一人? 後から来るんでしょう。