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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

そうなったら君にも腑に落ちる筈だ。君は、船を焼くという諺を知ってるだろう。船で敵国に上陸して、自分の船を焼き払って退路を断ち、敵地を征服するか戦死するか、どちらかだという、最後の肚をきめることだ。君は、船を焼くことが出来るか。」

「…………」

「船を焼いてからでなければ、本当に世間を試すことは出来ない。世間を試すつもりで、実は自分自身を試してるだけのことだ。」

「然し、敵地を征服出来なかったら……。」

「試してしまえば、それでもう征服したことになる。征服してから其処が嫌になって、新たに船を拵えて出帆するようなものだ。然しそんなことは、予算にははいらない。」

「予算……。」

「例えば、君の所謂、純粋行為みたいなものだ。純粋行為というのは、無動機の行為とはちがうだろう。だから、あらゆる可能な行為を含むことが出来る。死の行為までも……。」

「そうかも知れません。」

「ところが、死の意慾などというものが、君は人間にあると思うか。死の意慾のないところに、死の行為が為されるとしても、それはもう死の行為ではなくなるだろう。」

「だから、そんな行為はない……。」

「ないけれど、ある。