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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

二

夜遅く、市内電車が無くなったばかりの頃だった。島村と宮崎とは、上野広小路の大通りから、公園の方へ歩いていった。二人とも酔って、だいぶ足が乱れていた。それをゆっくり踏みしめながら、話し続けていた。

「君の気持は嬉しいが、もう間に合うまいよ。」

「え、間に合わないんですって。」

宮崎は一寸足を止めて、島村を見つめた。島村は振向きもせずに、歩き続けた。

「何事にも時機というものがある。こう云うと、君はまた心配するだろうが、一体、君のその変な杞憂がおかしいよ。単なる金銭問題だろう。金銭問題は、数字上の問題で、小学校の算術だ。そんなことで死ぬ馬鹿があるものか。」

「世間にはいくらもある……。それに、あなたの態度が、まるでめちゃだから……。」

「単に金を借りるのが目的だったら、僕もあんな態度には出ないさ。然し、大体もう駄目だと見極めがついて、こんどはこちらから世間を試してやれという気持になったら、それが当然じゃないか。」

「そして全然駄目だったら……世間があなた自身よりも金の方を大事にするんだったら……どうします。それを僕は……。」

「うむ、分ってる。最後の切札はあるんだ。