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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

と同時に、そこは室の上り口で、宮崎の身体は土間に転げ落ちた。なかなか起上らなかった。

「あら、御免なさい、どうかしたの……。だめよ、人の乳をつっつこうとしてさ。」

あやまるのとおこるのと半分ずつにして、静葉は助け起そうともしなかった。

宮崎は起き上ると、ふらふらと、島村の首にすがりつきにいった。

「強いね君は……ようし、僕と相撲をとろう。」

野口の癖が始ってきた。

「およしなさいよ、また……。恐いわよ、静葉さんは。向う見ずにひっぱたくんだから。」

そしてその芸者は、静葉のふざけた口調をまねた。

「失敬なことを、なんですか。」

野口も一緒に調子をとった。

「失敬なことを、なんですか……失敬なことを、なんですか。」

「では、お先に失敬するわね。」

静葉は笑いながらそう云って、島村に目配せをした。

なんだかんだと、いろんなことのあるうちで、私の注意を惹いたのは、島村と静葉との視線が絶えず連絡されてることだった。何かを云い何かをする度毎に、彼等の眼は始終相手に注がれた。その視線は、たとえ如何なる人込みの中でも、如何なる酔狂な振舞の中でも、断ち切られることがないらしく見えた。