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とねがわのあゆ
利根川の鮎
佐藤 垢石
「つり人」1948(昭和23)年4月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,875 字 · 10 页
今は昔ばなし
曲っ滝は利根川の流程八十里のうち、最も名高い激湍である。私は、子供を外套にくるんで、物置小屋ほどもある巨岩のかげに風を避けさせておいて竿を操った。
しかし、この想い出は、私の人生にとって、かつて私が幼いころ父に伴われて村の利根川へ若鮎に行ったときの想い出に比べれば、まことに滋味に乏しいのである。親への追慕、それは自分が年をとればとるほど滋厚を加えてゆく、このごろの自分を思う。それは、いかなるわけであろう。
私は幼いとき父に伴われて上越国境の四万温泉の奥の渓流へも、磯部鉱泉の碓氷川へも、足尾銅山の方から流れてくる渡良瀬川へも釣りに行った。五十余年過ぎた今日でも、その想い出が、なんとありありとしていることか。
今は昔ばなし
想い出の利根川も、いまは全く昔の俤を失った。奥上州水上温泉の下流小松に、東京電灯の発電所が設けられたのが、そもそも河床荒廃のはじめである。
ついで大正十五年に上越線岩本駅前に、浅野総一郎の関東水電取入口の大堰堤が築造され、それと前後として支流片品川の上久屋に、大川平三郎の上毛水電の堰堤が設けられてからは、流相明媚な利根の水が、決定的に滅亡した。