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しせい
刺青
谷崎 潤一郎
「新思潮」1910(明治43)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,651 字 · 12 页
その刺青こそは彼の生命のすべてゞあった。その仕事をなし終えた後の彼の心は空虚であった。
二つの人影は其のまゝ稍※(二の字点、1-2-22)暫く動かなかった。そうして、低く、かすれた声が部屋の四壁にふるえて聞えた。
「己はお前をほんとうの美しい女にする為めに、刺青の中へ己の魂をうち込んだのだ、もう今からは日本国中に、お前に優る女は居ない。お前はもう今迄のような臆病な心は持って居ないのだ。男と云う男は、皆なお前の肥料になるのだ。………」
其の言葉が通じたか、かすかに、糸のような呻き声が女の唇にのぼった。娘は次第々々に知覚を恢復して来た。重く引き入れては、重く引き出す肩息に、蜘蛛の肢は生けるが如く蠕動した。
「苦しかろう。体を蜘蛛が抱きしめて居るのだから」
こう云われて娘は細く無意味な眼を開いた。其の瞳は夕月の光を増すように、だん/\と輝いて男の顔に照った。
「親方、早く私に背の刺青を見せておくれ、お前さんの命を貰った代りに、私は嘸美しくなったろうねえ」
娘の言葉は夢のようであったが、しかし其の調子には何処か鋭い力がこもって居た。
「まあ、これから湯殿へ行って色上げをするのだ。